主人公は立花喜久雄と大垣俊介、主演は吉沢亮と横浜流星、監督は李相日、配信元:プライムビデオ
1964年、長崎。任侠の家に生まれ、父の壮絶な死を目の当たりにした少年・立花喜久雄は、上方歌舞伎の名門・花井家に引き取られる。そこで出会った当主の実子・大垣俊介とともに、厳しい稽古の中で歌舞伎の世界に身を投じていく。喜久雄に宿る異様な色気と女形としての天賦の才は、周囲を圧倒する。一方、血筋を背負う俊介は、才能の差に苛まれていく。やがて「血」ではなく「芸」が舞台を支配する瞬間が訪れ、二人の運命は大きく歪み始める。
物語は決して複雑ではない。むしろ、才能と血統、嫉妬と献身、芸の極みと人間の喪失という普遍的なテーマを、歌舞伎という華やかでありながら苛烈な世界に重ねて描き切る。李相日監督の演出は抑制が効いており、情感を過度に煽ることなく、役者の内面を静かにえぐり出す。吉沢亮は喜久雄の妖艶さと狂気にも似た芸への執着を、横浜流星は俊介の誇りと脆さを、それぞれ深く体現している。特に吉沢の女形の所作は見事で、観る者を舞台の幻惑へと誘う。
見どころはクライマックスの『鷺娘』。雪のような紙吹雪の中、喜久雄が舞う姿は、ただ美しいだけではない。少年時代に刻まれた「白い死の風景」と重なり合い、芸と生と死が溶け合うような神々しさを放つ。ラスト15分は息を飲むほどの集中力で、観終わった後の茫然とした余韻が深い。
ただ、ストーリーの骨子自体は直線的で、予測可能な展開も少なくない。それでも、174分という尺の中で二人の人生を走馬灯のように駆け抜ける構成は圧巻であり、終盤の情感の高まりに自然と引き込まれる。
総じて、歌舞伎という題材を通じて「人間とは何か」「才能とは何か」を問う、丁寧に作り込まれた作品だ。芸を極める者の孤独と輝きを、静かでありながら強烈に印象づける一本である。心に残る、静かなる熱演のドラマであった。
評価(5点満点)
- 脚本・構成:★★★☆☆(4.0) 、演技:★★★★★(4.8) 、演出・映像:★★★★☆(4.5) 、テーマの深み:★★★☆(4.6) 、総合:★★★★☆(4.6)
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