主人公はハンター・コンラッド、主演はヘイリー・ベネット、監督はカーロ・ミラベラ=デイヴィス、配信元:プライムビデオ
主演のヘイリー・ベネットが、ブルーカラーの出自から富裕層の御曹司と結婚した若い妻ハンターを、繊細かつ克明に演じきっている。
表面的には「誰もが羨む」結婚生活を送るハンター。しかし夫や義父母から対等な人格として扱われることはなく、彼女は次第に息苦しさを募らせていく。妊娠を機に、ある日衝動的にビー玉を呑み込んだ瞬間、彼女は未知の充実感を覚える。以後、画鋲や電池など危険な異物を次々と嚥下する異食症(ピカ)に陥る。周囲はこれを異常として監視し、精神科治療を強いるが、行為は彼女にとって抑圧された自己を取り戻す唯一の手段であった。
物語の骨格は単純である。富裕な家庭に閉じ込められた女性が、ストレスから身体を通じて抵抗を試みる過程を描くだけだ。しかしながら、展開は緩やかでありながら予測を許さず、観る者を静かな緊張のうちに引き込む。監督は華やかな演出を排し、ハドソン川沿いの豪邸の冷たい美しさと、ハンターの内面の荒廃を対比させつつ、心理の機微を丁寧に追う。特に後半、実の父親との再会に至るくだりでは、彼女が自らの起源と向き合いつつ、主体性を回復していく姿が印象深い。
興味深いのは、キリスト教的価値観に根ざした中絶忌避の描写である。日本人視聴者には新鮮に映る宗教観の相違が、主人公の運命を静かに規定している点は、文化の壁を超えた人間観察の一例と言えよう。
ベネットの演技は秀逸である。無気力な従順さと、異物嚥下時の恍惚、そして最後に芽生える決意を、微細な表情の変化で体現する。物語はスリラーの衣をまといながら、結局は抑圧された女性の自立への道程を描いたヒューマンドラマに帰着する。単純な構図でありながら、身体と精神の拮抗を真摯に見つめた力作である。
評価は★★★★☆(5段階中4)。
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