主人公はモー・ワシントン、主演はレティシア・ライト、監督はアンソニー・マンドラー、配信元:プライムビデオ
南北戦争終結から五年を経た一八七〇年のニューメキシコ。解放奴隷であり、元バッファロー兵士のモー・ワシントンは、男装して金鉱の権利を求めて西へ向かう。馬車が無法者の一団に襲われ、彼女は伝説のアウトロー、トミー・ウォルシュを捕らえて監禁し、残る生存者たちを助けることになる。
解放されたとはいえ、なお人種と性による二重の偏見に晒される黒人女性が、正義を貫き、鍛え上げた銃の腕前を頼りに荒野を生き抜く物語である。トミーを従えての逃避行と、追手との苛烈な銃撃戦は息を呑む緊張を孕み、とりわけ終盤二十五分以降の展開が圧巻だ。トミーの仲間が救援に現れると聞き、モーが機を窺う中で生じる裏切りと追跡、そして二人の早撃ち比べと金の行方は、西部劇の伝統を踏まえつつも鮮やかな余韻を残す。
ライトは寡黙な強さと内面の葛藤を静かに体現し、ベルとの対峙が作品に厚みを加える。差別の重圧を背景に、正義と生存の狭間で揺れ動く人間の姿を、簡潔かつ力強く描き出した佳作である。
この作品が静かに、しかし確かに伝えるのは、歴史の大きな潮流の中で、なお個人の矜持がどのように生き、また傷つけられるかという問題である。モーの寡黙さは単なる性格描写ではなく、言葉を奪われ続けてきた者の生存術であり、同時に、彼女がなお失っていない人間としての核を映し出している。トミーとの奇妙な共生関係も、善悪の図式を超えて、同じ荒野に放り出された二つの孤独が、互いに映し合う鏡のように機能する。
監督アンソニー・マンドラーは、過剰な説明を避け、風景と沈黙と銃声の間に、人間の機微を丁寧に配置した。西部劇という形式を借りながら、むしろその形式が本来持っていた「人間の限界状況」を、現代の観客の眼に新鮮に甦らせた点が好ましい。ライトの抑制された演技は、感情を押し殺すことの残酷さと、それでもなお残る意志の強さを、同時に浮かび上がらせる。ベルとの対峙が生む微妙な緊張感は、作品全体に静かな深度を与えている。
派手さはない。しかし、観終わった後に残るのは、歴史の重みを背負った一人の人間が、なお自分の足で立とうとする姿の記憶である。簡潔にして力強い、佳作と呼ぶに足る一作だ。
評価:★★★★☆(5段階中4)
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