主人公はガーディアン紙の調査報道記者のローラ・“ロー”・ブラックロック、主演はキーラ・ナイトレイ、監督はサイモン・ストーン、配信元:ネットフリックス
ガーディアン紙の調査報道記者ローラ・“ロー”・ブラックロック(キーラ・ナイトレイ)は、情報提供者の死というトラウマを抱えつつも、末期がんを患う億万長者アン・ブルマーからの招待を受け、ノルウェー沖を航海する豪華スーパーヨットに乗り込む。ブルマー夫妻が新たに設立した慈善財団についての記事を書くためである。船上の最初の夜、彼女は10号室に身を潜め、そこで謎めいた金髪の女性と出会う。しかしその夜、叫び声と争う音、血のついた手形、そして誰かが海に落ちる光景を目撃する。翌朝、船内に異変はなく、10号室に宿泊客の記録もない。不安に駆られたローは独自に調査を始め、元恋人の写真家や富裕層のゲスト、乗組員たちの間を縫うようにして真実を追い求める。
本作は、閉ざされた豪華客船という舞台を最大限に活かした古典的な密室スリラーである。物語の骨格自体は決して複雑ではない。富豪の依頼で取材に赴いた女性記者が、船上で不可解な事件に巻き込まれていくというシンプルな構図だ。しかしその単純さが、かえってテンポの良さを際立たせている。シーンは次々と切り替わり、疑惑と危機が間断なく降りかかる。視聴者はローとともに息を詰まらせ、手に汗を握ることになる。
キーラ・ナイトレイが演じるローは、トラウマを抱えながらも決して屈しないタフさを備えている。彼女の目に宿る警戒心と、状況を切り開こうとする執拗さが、物語の推進力となっている。監督サイモン・ストーンは、船上の閉鎖空間を巧みに利用し、監視カメラの不在やプライバシーという名目の下で進行する不穏さを丁寧に積み重ねていく。特に後半、ラスト25分あたりから加速する展開は、緊張感を一気に高め、観客を最後まで釘付けにするだろう。
富裕層の慈善活動の裏側や、権力と隠蔽の力学といったテーマも、過度に語りすぎることなく、ローの視点を通して自然に浮かび上がる。派手なアクションに頼らず、疑念と観察の積み重ねでサスペンスを構築する手法は、古典的なスリラーの美学を現代に蘇らせたものと言える。
一方で、登場人物の動機や背景の掘り下げはやや浅く、物語の意外性にやや欠ける部分もある。しかしそれもまた、スピーディーな展開を優先した結果と受け止めることができよう。キーラ・ナイトレイの集中した演技と、緊密な空間演出が作品を支え、娯楽作として十分に機能している。 簡潔にして緊張感に満ちた船上の一夜。キーラ・ナイトレイのタフな記者像が印象に残る、手堅いスリラーである。
評価:★★★☆☆(3/5)
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