主人公はディエゴ、主演はアルベルト・アンマン、監督はアレハンドロ・ロハス、配信元:プライムビデオ
アメリカという巨大な装置の入口で、二人の人間がただ「待つ」ことを強いられる。その単純きわまる状況を、ほとんど密室劇として淡々と見つめた作品である。
ベネズエラ人の都市計画家ディエゴと、バルセロナ出身のダンサー、エレナ。事実婚の関係にある二人は、エレナが抽選で得た永住権ビザを頼りに、新たな生活を求めてアメリカへ向かう。ニューアーク空港の入国審査で、何気なく選んだ列が二人の運命を静かに揺さぶりはじめる。I-9用紙の紛失、指紋採取、二次審査エリアへの連行、荷物の徹底的な検査、インスリンの押収、そして長い沈黙と尋問。画面はほとんどその狭い空間から動かない。
物語自体に奇抜な仕掛けはない。しかし審査官たちの質問は容赦なく、しかし淡々と、二人の過去と現在を抉っていく。ディエゴがかつて別の女性と婚約者ビザで渡米を試みていた事実、ビザ申請の失敗歴、親族の事情、そして「なぜアメリカでなければならないのか」という問い。エレナは知らなかった恋人の過去をその場で知らされ、ショックを受ける。審査官の一人が完璧なスペイン語で応じる瞬間や、エレナにダンスを実演するよう強要する場面など、権力の非対称性が冷たく、しかし生々しく浮かび上がる。
特に終盤、エレナが家族との離別や将来の子育ての経済的負担を具体的に突き付けられるくだりは、二人の関係そのものを試すような残酷さを帯びている。カメラは感情を大げさに煽らず、表情の微細な変化と沈黙の長さで心理を描き出す。その抑制されたリアリズムが、この映画の最大の美点だろう。
そして最後、長い審査の末に二人は入国を認められる。そのあっけないほどの結末に、観る者は思わず苦笑する。巨大なシステムの前でこれほど揺さぶられたあげくの「通過」。そこに漂うのは、安堵とも虚しさともつかぬ、奇妙な余韻である。
ストーリーは単純であり、展開も緩やかだ。しかしその単純さのなかに、現代の移動と監視、愛情と不信、国家と個人の関係が、静かに、しかし鋭く映し出されている。派手さはないが、記憶に残る小品である。
評価:★★★☆☆(3/5)
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