主人公はシングルマザーのノラ、主演はマリナ・フォイス
シングルマザーのノラ(マリナ・フォイス)は、9年前の夫婦殺人容疑で無罪判決を受けた男の再審に、ひそかな情熱を注ぐ。
息子の家庭教師を通じて弁護を引き受けた法学者モレッティ教授の助手となり、膨大な通話記録を文字起こし、事件の闇を紐解いていく。
日常の厨房仕事と並行するその執念は、自身の過去の影を映す鏡でもある。
物語は淡々と進むが、裁判の緊張が徐々に高まる。被告の曖昧な証言、ベビーシッターの変心、記者の陰謀めいた影──これらを、ノラの細やかな分析が照らし出す。
ラスト25分、クレマンスの証言とモレッティの最終弁論が炸裂する。論理の鋭刃が検察の網を切り裂く様は、ヒッチコックを思わせる洗練されたスリル。
ノラの献身が、単なる助手以上の絆を生む瞬間、胸に沁みる。裁判劇の枠を超え、母の確信が正義を呼び覚ます力強さ。フォイスの抑制された演技が光る佳作。日常のささやかな喜びが、巨悪に抗う原動力となる──そんな静かな感動を、丁寧に紡ぎ出す一作だ。
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