主人公は新進気鋭の政治家キム・ジョンチャンの妻キム・ヨノン、主演はソン・イエジン
ソン・イエジン主演の韓国サスペンス『荊棘の秘密』は、単なるミステリーに留まらない、家族の絆と社会の闇を抉る一作だ。
舞台は大統領選挙を控えたテサン市。新進気鋭の政治家キム・ジョンチャン（キム・ジュヒョク）の妻ヨノンを演じるソン・イエジンが、娘ミンジンの失踪をきっかけに、理性を失わず、しかし心の奥底で燃える復讐の炎を湛えながら真実を追い求める姿は圧巻だ。
物語は、選挙戦の喧騒の中で始まる。ヨノンは夫を支える良妻として振る舞いながら、娘ミンジンの些細な変化に気づかぬまま日常を過ごす。
しかし、選挙初日にミンジンが消え、物語は一気に加速する。携帯の通話記録、怪しげな友人ミオク、担任教師の曖昧な態度、そしてヨノンが発見する盗聴器――。すべてのピースが、まるで絡まった糸のように複雑に絡み合い、観客を翻弄する。
監督カン・ウソクは、こうした断片的な手がかりを巧みに散りばめ、観る者を迷宮へと誘う。誰かならこう言うだろう。「この映画は、まるで韓国の市場で売られるキムパプのようだ。見た目はシンプルだが、一口噛むごとに異なる味わいが広がる」。
実際、序盤は失踪事件の単純なサスペンスに見えるが、中盤から政治的陰謀や家族の亀裂が顔を出し、終盤25分で怒涛の展開が雪崩のごとく押し寄せる。ヨノンがミンジンとミオクの秘密の隠れ家「ワイルド・ローズ・ヒル」で真相に迫るシーンは、ソン・イエジンの鬼気迫る演技も相まって、胸を締めつける。
特筆すべきは、ヨノンのキャラクター造形だ。彼女はただの被害者の母ではない。夫の選挙戦、警察の無能さ、怪しげなムーダン（祈祷師）の戯言に翻弄されながらも、彼女は自ら行動し、時に暴力的でさえある手段で真実を暴いていく。この「母の強さ」は、韓国映画が得意とする感情の爆発と、ソン・イエジンの抑制された演技が絶妙に融合した結果だ。
一方で、夫ジョンチャンの選挙戦に絡む政治的策略は、韓国の社会問題を背景に描かれ、物語に深みを与えている。
ただ、誰かならこう釘を刺すかもしれない。「あまりに多くの糸を織り込みすぎたか？ 終盤の展開は鮮烈だが、若干の無理やり感は否めない」。確かに、ミオクの催眠療法や盗聴器の発見など、劇的な仕掛けがやや過剰に感じられる瞬間もある。それでも、ヨノンが娘の死と向き合い、復讐を果たすラストの鮮烈さは、そんな小さな瑕疵を吹き飛ばす力を持つ。
この映画は、単なるサスペンスを超え、親子の絆、裏切り、そして社会の不条理を突きつける。ソン・イエジンの瞳に宿る哀しみと怒りは、観る者の心に長く残るだろう。誰かならこう締めくくるはずだ。「『荊棘の秘密』は、棘のように刺さり、秘密のように心をざわつかせる。あなたなら、ヨノンの選択をどう思う？」
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