主人公はドイツ連邦情報局BNDの諜報員マーティン、主演はアリレザ・バイラム
雪のちらつく湖畔、女が水をかき分ける。静謐な光景は、しかし、どこか不穏な空気を孕む。
この映画は、冷え切った世界で、人の心もまた凍てつくかのような情報戦の渦が描かれる。
物語は、マーティンが亡命者マンスード・ベザットの永住権申請に通訳として立ち会う場面から動き出す。尋問の場で、亡命の理由や経路を問うマーティンの目は、鋭くもどこか疲弊している。
やがて彼は、上司ウェルネックに促され、連邦刑事庁のアルネ・マルコフと共に、アフガニスタンのバカタに潜む最重要人物アル・バヒリの所在を報告する。だが、新任の中央アジア部長パトリック・レムケは情報の真偽を疑い、会議は緊迫する。グリュンハーゲン局長の「今日中の判断を」との言葉に、マーティンはドローン攻撃を進言する。この決断が、物語の歯車を軋ませる。
一方、私生活では、娘の誕生日を祝うマーティンの姿が描かれる。諜報員としての冷徹さと、父としての温もりが交錯するこの場面は、彼の人間性を垣間見せる。だが、その夜、遠くニューメキシコのCIA秘密基地から放たれたドローンが、アル・バヒリを狙う。情報は正確だったのか、それとも――。
翌日、フォスマイヤー副大臣の記者会見で、マーティンの恋人であり記者のオーリス・ケラーが、亡命者への尋問や武器保有の疑惑を追及する。マーティンは彼女に軽率な接触を戒めるが、その夜、テロリストの報復としてカフェが襲撃され、オーリスは銃弾に倒れる。遺体安置所で慟哭するマーティンの姿は、情報戦の非情さを突きつける。
物語はさらに暗転する。マンスードの処刑、ウェルネックの突然の倒れ、テロリスト拠点への攻撃失敗と自爆――。
マーティンはオーリスの湖畔のコテージで謎の死体を発見し、情報局内部の裏切りと陰謀の匂いを嗅ぎ取る。追い詰められた彼は、連邦刑事庁のアルネにグローバル・ロジスティクス社の調査を依頼するが、新部長パトリックにより情報局への入館を禁じられる。
クライマックスは、ラスト25分、アフガニスタン・ザヒリスタンの国際治安支援部隊基地での凄絶な戦闘だ。グリュンハーゲン局長、パトリック部長と共に現地へ飛んだマーティンは、テロリストの襲撃に遭い、仲間は次々と倒れる。生き残ったマーティンの眼差しには、情報戦の虚無と、なお抗う意志が宿る。
この映画は、情報戦の混沌を冷徹に描く。騙し、裏切り、疑心暗鬼――。登場人物たちは、まるで戦国時代の智謀家のように、互いを計り、出し抜こうとする。
マーティンの行動は、義を貫く武将のそれとも、己の保身に走る凡夫のそれとも判然としない。司馬遼太郎が好んで描いた「人間の業」とは、まさにこの曖昧さにある。人は、信念と打算の狭間で揺れ動く。オーリスの死は、マーティンにとって、戦場での血よりも重い痛みだったろう。
ただ、物語は時に性急だ。情報戦の複雑さを描きつつも、人物の内面を掘り下げる余裕が足りない。マーティンの苦悩やオーリスとの愛は、もっと深く描かれていれば、司馬氏が愛した「歴史の陰に潜む人間」の姿に近づいただろう。ゆえに星四つ。だが、その混沌とした世界観は、観る者の心に問いを投げかける。情報とは何か。真実とは何か。そして、人はかくも脆く、強く生きるものなのか。
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