主人公は英国人音楽家フレッド、主演はマイケル・ケイン
イタリアの山奥、霧に包まれた高級リゾートホテル。そこに、英国の老音楽家フレッド・バリンジャー(マイケル・ケイン)が、妻の病気を口実に療養にやって来る。監督はパオロ・ソレンティーノ、コメディの看板を掲げながら、老いと創作の腐臭を嗅がせる、妙に息苦しい一品だ。
フレッドは英王室から、女王陛下の勲章授与と、フィリップ殿下の誕生日演奏会での自作曲「シンプル・ソング」の指揮を打診される。だが即座に断る。なぜなら、そんな大仰な舞台で、妻の歌声なしに自らの旋律を晒すなど、老いた男の自尊心が許さんからだ。
夜の庭で悪夢にうなされ、若い映画俳優のミスターQ(ポール・ダノ)に絡まれ、親友の映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)と他愛ない世間話。翌朝、マッサージの指圧に身を任せ、娘レナ(レイチェル・ワイズ)から、ミックの息子ジュリアンとのイタリア旅行の報告を聞く。
ミックは部屋で若手俳優の演技を眺め、脚本の煮詰まりに苛立つ。
フレッドとミックは散策し、昔の恋人ギルダやレナの過去をぼやかす。夕食のレストランで客の品定めをし、部屋に戻ればレナの泣き声。ジュリアンがレナを捨て、「ベッドが最高だ」とミックに吐き捨てる。フレッドはレナに真相を漏らし、泥パックまみれの顔で母親の悪口を浴びせられる羽目に。
夜、再びレストランで夫婦の喧嘩を目撃し、森の闇でその夫婦の営みを覗き見る羽目に。レナは悪夢で転げ回り、「ベッドが最高」と笑い転げる。
バイオリン弾きの少年がフレッドの曲を奏でるのを聞き惚れ、王室の使者が再訪するが、「妻しか歌えん」と再び拒否。
ミスターQとのベランダ談義、ショーの合間の食事。すべてが、老いぼれたちの空回りだ。
見どころは、ラスト25分。映画製作に挫折したミックが、ベランダから飛び降りるのを、フレッドはただ見ている。無力な視線。そこに、老いの本質が凝縮する。創作の炎は、いつしか灰の山。
ソレンティーノのカメラは、残酷にその灰を掻き回す。ケインの皺一つ一つが、語るべき物語のすべてだ。だが、何か釈然とせぬ。この映画の不快な余韻は、あちこちに散らばる療養シーン――サウナの蒸気、マッサージの油ぎった指、温泉の湯気――に起因する。これらは単なる背景か? いや、違う。
ソレンティーノは意図的に、老いた肉体の「手入れ」を強調する。だが、それが何の役に立つ? フレッドの拒絶、ミックの自滅、レナの崩壊――すべてが、こうした「ケア」の無意味さを嘲笑う。人間は老いる。創作は枯れる。関係は腐る。それを、蒸し風呂のようなリゾートで誤魔化そうとする愚かさ。そこに、誰かなら一喝するだろう。「くだらん。肉体を磨いても、魂の皺は消えんぞ」と。コメディの仮面の下に、ニヒリズムの牙が覗く。この不完全さが、かえって心地よい。観終え、湯上りのように、べたつく満足感が残るのだ。
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